ある週末
友人からハイキングに誘われ、自然の中での、リラックスした週末を想い描いた私は
トレーナーとミニスカートに、街用ジャケット、街履きブーツという、
なんともゆるーい出で立ちで山へと出発しました。
この時の私は、この後、標高2655メートルあるタトラの山を麓からてっぺんまで、道中凍った雪道をも乗り越え、
命がけで約20km、日没まで9時間歩き続けることになるとは思ってもいませんでした。
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話のつづき〜・・・の前に、ちょこっと “スロバキアの富士山”、”タトラ山” について。
タトラはスロバキアの母なる山脈、スロバキアとポーランドの国境に位置していて、
長くて大きい山なので、電車など結構いろいろな場所からその姿を見ることができます。
スロバキアの国歌、「稲妻がタトラの上を走り去り」(スロバキア語: Nad Tatrou sa blýska)
のテーマにもなっているし、(とゆうか、ででーんとタイトルに入ってるし。)
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国旗にも描かれている スロバキアの母なる山脈です。(この3つの青いもりもりの部分。)
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そしてそして 、やって来ましたタトラ山。
そして今から登るのは、ここ。⬇️ この真ん中のツーンととんがってる山ですよ。
と、友人から説明を受けたような気もしますが、
ちょっとその事実を受け止める器がなく、それ以上追求せずサラッと聞き流した私。
その情報はあえて右の耳から左の耳へと、私の脳味噌を素通りさせました。
だってあの高さ。うふふハイキングが頭にある私にとって冗談でしかない。
知らない方が上手く進む事も、世の中には結構あります。
というわけで、あえて最終目的地やルートについては、
①質問せず、②話題にせず、世間話をしながらスタスタ歩き始めました。
ぽじゅめー。(Poďme!) = スロバキア語の レッツゴー。
1. 序章:ウフフな感じの散歩道
森の中に敷き詰められた石畳のいい感じの散歩道を、テクテクワイワイと1時間ほど歩き、立ち止まる一行。
友 : (下の写真の、左側を矢印あたりを指差して)
「 ほら、あの雪の積もってる部分。まずは、あそこのてっぺん目指すから。」ニコニコ。
はい?
ぐるーーーーとこの道を左にまわって、一旦今の山を降りて、その下に広がる森を抜けて、あのガリガリにとんがってる氷の山に? 信じない。
グイグイ♪ 歩き出す友。その後、また30分ぐらいは素敵な森の散歩だったんです。
湧き水、紅葉、キラキラ光る川、新鮮な空気と木漏れ日。ウフフな感じの森の散策の後、湖の側で真剣会議を始める友人。
お兄さんたち。集まってごにょごにょ何やってるの?
携帯のテキストメッセージを送るだけで入れる0.7ユーロ(100円ぐらい)の1日簡易保険があるからそれに入るんだと。
「薫も入りなさい。もしも骨折したり、谷底に落ちてヘリコプターを呼ばないといけなくなったら、最低6000ユーロはかかるんだから、その時に備えて保険に入ったほうがいい。」と真顔の友。
いや、骨折って何ですか?あたし森の中のお散歩のつもりで来たんですけど。保険って、またまた、そんな大げさな。
私は入らなかったのですが、他の仲間たちはポチポチと続々保険加入していました。
この時点では、まだ彼らとのハイキングを甘く見ていました。・・・
私的には、もう1時間以上歩いたし、いろいろ堪能したし、そろそろどこかでほっこりお茶でも飲んで、お昼ご飯でも食べましょう。という気分だったのですが・・・
2. 山の付け根から
ヒュオオオオオオ。。。。。
なんとゆうか、雪山っすね。
この保険加入休憩のあと、急にこんな雪山に突入。まじか。。。いや、私こんなの聞いてなかったけど。。。
と内心思いつつも、仕方がないのでひたすら歩く。 というか生きる。ゴクリ。
いや、本当に道無き道、凍った斜面をジグザグと登っていくんです。凍った岩肌、ツルツルの急斜面、一瞬の気の緩みも許されない。
45-60度ぐらいあるんじゃあないかという斜面。そして、木などの掴まれるところや、引っかかりになるところが本当に所々しか無いので、
もしも足を滑らせたりしようものなら、この傾斜を標高1990mから凍った岩肌をゴロゴロ一気に下まで転がり落ちる可能性大というファイト一発な状況。
引き返すなんて到底無理だし、もうただ顔を上げて、上も見ないように(延々に続くから)下も見ないように (恐怖が募るから)、一歩先の難関だけを見据えて黙々と足を運ぶしかない。
集中による超沈黙の私。
「死ぬー。怖いー。滑り落ちて頭蓋骨カチ割りたくないよーー」と大声で泣き言を言い続けるスウェーデン人男性。
しかしスロバキア人たちは強かった。
止む事のないおしゃべりをダハハワハハと続ける友人たち。
私以上の軽装で、手繋ぎデートしている若者。
全身黒タイツに身をつつみ、ほっほっとジョギングしているカップル。いやーさすが、良いお尻でしたわ。ぷりっとしてた。
ザクザクと軽快で確実な足取りで、凍った山道を登っていく老人カップル。
見て、この傾斜。見てこの氷。見てこの元気に笑ってる強い人たち。
同じ斜面でも、一歩影から踏み出すと、雪も氷もないこんなにハッピーな感じになる。
まあ、まだ傾斜は素敵な45度ですが・・・
山の影になっている部分と、日なたの部分の世界が違いすぎる。
なんというくっきりコントラスト。
ほら、影の部分の傾斜がヤバい。これ、私たちが登ってた側の傾斜です。ダークサイド恐るべし。
第一の目的地まで、なんとか全員生きてたどり着き。ふう。
タトラのてっぺんで、山と空と一体化して昼寝をする友人。
これってスロバキア男性の男のロマン的な要素あるんじゃないかな?
タトラのてっぺんで、”おーい お茶” のボトルを手に微笑むスロバキア美女。シュールな光景。
彼女は数週間前まで日本に行ってたらしく、”おーいお茶” のボトルがお気に入り。
標高が高いので太陽が強い。そして眼下に広がる他の 山脈。
この山では、崖っぷちにも関わらず、エッホエッホとジョギングしている人などが居た。
これを見たスウェーデン氏が後ろからツンツンしてきて、「スロバキア人、命をなんやと思ってるんやろう?」と問いかけてくる。
見ているだけでこっちの命が縮まる気がする。
しかし、もう一度言わせてもらうけれど、この山道ジョガー達、男女ともに非常にいいプリッとしたお尻をしておられる。
4. タトラの裏側
ここまで登った後は、山の裏側にぐるっとまわり、次の山へ次の山へと向かいます。
一旦この高さまで登ってしまえば、多少の上がり下がりはあるものの、時に絶壁さんもあるものの、ダークサイドの表側と比べると平坦と言っていい平和な道が続いていたりするお日様ギラギラの裏側タトラ。別世界。
タトラのトレッキングの道は、基本的に、白と赤のサインを見つけながら、それに沿って歩いていきます。
このピンク矢印先に見える細い線が、トレッキング道。これがタトラ山脈のあちらこちらにぐるーりと張り巡らされている。
トレッキングの道は、
こんな、苔苔しい岩場の中に隠れていたり、
こんなフサフサの毛並みに囲まれていたり (このフサフサのどこに道があるかわかりますか?)
ザラザラの山肌とか
こんな低い木に縁取られた細い道が続いていたり (ピンクの矢印の先もトレッキング道)
絶壁の崖の道とか
昇降運動の激しい岩場があったり
山頂付近の湧き水でできた池へ繋がってたり
いろんなランドスケープ、地形があって、
果てしなく長いのだけれど、このサインを探しながら歩いていくと、
山が次々と違う景色を見せてくれ、次々と違う体の動作が求められ、
エンターテイメント性が素晴らしくて、決して飽きない。
本当によく考えてつくられたトレッキング道なんだなぁと思う。
—— そんなタトラの山を歩きながら私は考えていた。——
そんなことを、崖っぷちの細道で考えながら歩いていると、また誰かが私を追い抜こうとした。
お一人様用の細道で。
野生の鹿のように軽やかに私を追い抜いていった彼。
走って、走って・・・
・
・
・
薄々気づいてはいましたが、やっぱりスロバキア人の ”ハイキング” の定義と私たち一般市民のそれに
大きなズレがある事を確認した旅でした。
そして、スロバキアでのハイキングでは、保険が役に立つかもしれない。と思いました。
いや、むしろ生命保険でもいいのかもしれない。と思いました。
追記——–
この記事を読んでくれた友人から、
「それでそのぶらんぶらんってなった人は助かったの?」と、質問をもらったので。
ぶらんぶらんってなった彼は、しばらくの間、衝撃から、ぶらさがったまま目をむいて固まっていて、
私も同じく目の前で起きたことの衝撃から、目をむいてしばし固まっていました。
無闇に動いたら、この人奈落に落ちちゃうんじゃないかと思って、救出には、ジリッジリッとゆっくり動き出しました。
私たちに引きずり上げられてから、気まずそうにテヘヘと笑って、「ありがとう」と言ってまた小走りに去って行った全く懲りない彼。
いや、すぐにでも立ち去りたいのわかるけど、学ばなさすぎる。
気まずそうに笑おうとしていたけど、目は笑ってませんでした。
でも、もうそんな状況で テヘヘ と愛想わらいができる事にあっぱれ。
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Vysoké Tatry
歩行時間 : 9時間
距離 : 20km
標高 : 約2000
ざっくりこんなかんじのルートでした。カメラについているGPSがログをとっていました。
スロバキアの友人とのハイキングは、毎回毎回ハードコアで、命がけで、傷だらけで、時々なんでこんな事してるんだろうう?って自問するぐらいしんどくて、でも頑張った分、息を呑むような絶景が見れたり、ご飯が美味しかったり、自然が体験させてくれるご褒美がいっぱいだし、なにしろ友人と共有する達成感が尋常じゃないので、病みつきになってしまい、最近は毎週末どこかの山に行ってしまっている私でした。
日常でずっと頭を24時間占領している、制作の事とか、「しなくちゃいけない事リスト」や細々とした永遠に終わらない問題について考える余裕などなくなり、生き残る事、なんとかして日没までに生きて下山する事だけを考えるスロバキア人とのトレッキングの時間は、脳みそにとても良いリラックス効果があると感じました。
スロバキアの人々から”ハイキング”のお誘いを受けた際には、しっかりした靴と保険と心構えをお忘れなく。
追記の追記———
このハイキングから数日後、ハイタトラでこのような映像が撮影されました。
ドゴゴゴゴゴゴゴ。。。。。
地鳴りのような音と振動の中、突風でまっすぐ歩けないお兄さん。
そして、その友達、風を受けて飛ぼうとしている。
いや、そこ標高1964mの崖っぷちだからね。
ちなみに、この動画の撮影場所は私たちが通過した地点です。ココ↑
ごくり・・・
これはウチの母に見せたらいけないやつや。。。
母、確実に失神。ごめんねお母ちゃん。
ほんまやね、山をなめたらあかんね。
動画URLはココです↓
http://www.mojevideo.sk/video/2595e/silny_vietor_v_sedle_pod_ostrvou_(vysoke_tatry).html
というわけで、もしもタトラに行かれる方はこんな事も、起こるらしいので気をつけてくださいね。
山の天気と女心はなんとやら〜〜
もっともっとがっつり登りたい人の為の登山情報。———-
タトラのてっぺんまで行ったと言いましたが、私たち素人がロッククライミングの技術なしで行けるてっぺんは、
ここの池の部分で、まあ、それでも標高2000m近くはあるのですが、
こっから先のこのトンガリ部分まで行きたかったら、クライミングの技術と、公式なツアーガイドを200ユーロで雇う事になるらしいです。
夏にあのてっぺんまでがっつり登ってから、この下の池に思いっきり飛び込んだら、気持ちいいだろうな。
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おまけ。
タトラ山の麓の素敵な廃墟。
それではまた。
Kaoru
2 comments
よーく似た体験を数年前に。
スロバキアではもう決してハイキングのお誘いには乗らないと心に誓いました。
コメントありがとうございます :) 嬉しいです。
やはりそうでしたか。。。スロバキア人のハイキングの定義、難易度が1レベル上ですよね。
私も、こりたはずだったのですが、その一週間後に「今回は前みたいじゃないよ。のんびりとした散策だよ。ほんとほんと、大丈夫!」という誘いに乗ってまた行ってしまいました。。。
スロバキアハイキング編その②をアップしたいと思っています。